Everyone, Creator のその先

アルバイトして買った20万円のシンセサイザーで音楽を作って、それをカセットテープに録音した。でも、無名だから、ただテープを配るだけでは興味を持ってもらえない。直感的に欲しいと思ってもらえるように、せめてジャケットデザインをかっこよくしたいと思った。そうして、僕はデザインを始めた。

かつてはものづくりをするにも、広く自分の制作物を世に広めるにはハードルがかなり高かった。作るための道具を揃えるには、それなりのお金がかかったし、発表の場を求めるにも、プロフェッショナルとアマチュアの世界が明確に区分されていて、まずは、コンテストやオーディションをパスして、商業ベースに乗せる必要があった。自主制作で同人やインディーズとして活動するなら、作品を自分で広めていくのに、大きなコストが必要だった。

だから、Google Chromeの初音ミクをフィーチャーしたCMがテレビという日常生活の1シーンに流れた時、誰もが表現者となり、世界中の人々にそれを届ける事ができる新しい時代の幕開けを実感し、感動した。誰もが自己表現でき、それを世に問う事ができる。そして、誰もが世界中のまだ見ぬ才能や作品に出会う事ができる。好きなこと、好きなものをとことん楽しめる時代。僕も微力ながら、そういった未来の実現に少しでも関わりたいと思って、日々のサービス開発に取り組んできた。自分がそこにどれだけコミット出来たかは別にして、確実に世の中の環境は変化してきたと思う。

作る手段(ツール)、発表の場(サービス)は無数に提供されるようになった。そして、作品を楽しむ環境(デバイス・インフラ)は整っていて、世界中で多くの人が、魅力的な作品に出会えるのを待っている。作品を通じて自己表現をしたいと思う人達にとっては、素晴らしい時代だ。何かをやりたいと思ったら、あれこれ準備をしなくとも、すぐに衝動のままに動き出すだけで良い。環境は十分すぎるくらい整っているんだから。

いまや、スマートデバイスの普及と通信インフラの充実に下支えされ、誰もが自分の想いを世界中の受け手に発信できる時代だ。大量のコンテンツが流通する世の中では、いつでもどこでも、スマホを見れば、楽しいコンテンツが溢れている。テキストを読んで、マンガを読んで、音楽を聴いて、動画を観て、ゲームをやって、コミュニケーションして、いつまでも楽しんでいられそうだ。

しかし、身の回りを行き交う情報量は増えても、僕たちの可処分時間は無限に増やせるわけではない。限られた時間の中で必要としている情報にいかにスムーズに出会えるかが、これまで以上に重要になっている。見たくないもの、楽しめないものに、貴重な時間を使ってはいられない。

世の中を見渡せば、作る場はまだまだ増え続けていて、コンテンツの洪水は止まらない。だからこそ、いま必要なのは、情報をより適切な形で人々に届ける仕組みなんじゃないか。必要としている人が、自ら探して回るまでもなく、必要なコンテンツ・情報が目の前に現れる、そんな仕組み。編集によって、それを整理しようとする試みが雑誌やニュースサイトのようなメディアだと思うけど、他にも様々な切り口が考えられそうだ。もっともっと、そういう仕組みが増えてほしいし、もっともっと洗練されてほしい。作ったものが、コンテンツの洪水に紛れてしまい、本当に届くべきだった受け手に届くこと無く、埋もれてしまうのは、本当にもったいない。

人々を取り巻く情報は社会のムードを作る。ムードは社会の未来を作る。だからこそ、自分が出会うべき情報、必要としている情報に正しく繋がることが重要である。情報を届ける仕組みを整備すること、そこに、社会、未来をより豊かに変える1つのチャンスが眠っているんだろうなあと思う。