デザイングループのデザイン

デザイングループのデザイン

はじめに

組織づくりの話を聞きたい。そう言われることが増えてきました。

世の中にはいろんな会社があって、そこにはいろんなデザイナーが働いているわけですが、デザイナーの制作物や、チームでの個別の取り組みについて、話を聞くことはあっても、その前提となる組織全体の枠組みについては、突っ込んだ話を聞く機会が少ない気がします。

しかし、普段意識している以上に、僕たちの振る舞いは、身を置く環境の有り様に影響を受けています。あの会社が精力的にイベントを行っているのも、あのデザイナーが積極的に情報発信をしているのも、その根底には、それを後押しする組織の文化や思想があります。つまり、組織について知ることは、それを構成する人や取り組みについて知ることでもあります。そう考えてみると、組織づくりの話というのは、組織を作る人だけでなく、組織に属する人にとっても、有益なものなのかもしれません。

僕は、はてなのデザイナーが所属するデザイングループという組織で、プレイヤーとしてものづくりをしつつ、マネージャーとして組織づくりにも関わっています。最初は、そもそもグループの意義って何なんだ?という素朴な疑問について考えるところからスタートしましたが、日々、あれこれ考えたり、試行錯誤をしながら、より洗練されたかたちを目指して、今日も運用を続けています。まだまだ完成形は見えず、道半ばという感じですが、なかなか話す機会が無かった組織づくりについて、これまで考えてきたことを、ここにまとめてみようと思います。

組織づくりって一体何をやればいいんだ

事業やサービスの成長を目的とする開発グループと違って、職能グループはどういう目的を持つべきなんだろう。グループの枠組み作りは、まずはその目的に向き合うことから始めました。

はてなのデザイナーは、組織図上、サービス開発を行うグループと、デザイナーが集まる職能グループの両方に所属しています。基本的に、僕たちがこの会社で働く一番の意義は、ユーザーにとって価値があるサービスを作ることにあると思っているので、各々のリソースは、極力そこに使ってほしい。そのためには、デザイングループに所属することで業務上の負荷が増えるということは極力避けたい。追加の業務が降ってくる場所ではなく、所属することでメリットが得られる場所に出来ないか。

そして行き着いたのが、職能グループは「日々の業務を通じて成長できる仕組み」である、という考え方でした。グループの目的を、会社への直接的な貢献ではなく、メンバーの成長に置いたことで、所属するメンバーにとってメリットのある場所であると定義づけようと思いました。

成長できる仕組みについて

では、どうしたら成長できるんだろう。

仕組みとして機能させるためには、成長のメカニズムを明らかにして、それをルール化しなければなりません。そこで、まずは成長のプロセスを3つの要素に切り分けました。

1. 理解
2. 実践
3. 定着

さて、これをどのような手段で実行していくか。

本を読んだり、手本をなぞったり、練習したり、成長の手段はいろいろあります。これは個人として研鑽するための手法としては良いのですが、グループとしてこれを強制してしまうと、成長のための業務が増えることになってしまいます。業務上のリソースは、極力、サービス開発に向けて欲しいという前提を置いているので、これは最適な手段ではありません。この前提を元にして成長する仕組みを作るなら、業務を通じて成長してもらえるような機会を整えるという温度感が適切で、その点も考慮しなければならないと思いました。

1. 理解(価値観の共有)

成長するには、闇雲に進むのではなく、どうなりたいか、何をやりたいか、というような、目指すゴールについて、自分の中でイメージが持てることが重要です。自分はデザイナーとしてどういう在り方を目指すのか。そのために、どういう観点でデザインを捉え、どういったスキルを伸ばしていけば良いのか。

スキルに関して考える上で重視したのは、個別の知識や技術を軸にするのではなく、デザイナーという職能の普遍的な機能を価値軸として提案することでした。技術やツールが日々革新される現在においては、個別の知識・技術にフォーカスしすぎると、トレンドや環境変化に左右されやすいと思うからです。

デザインには、日々業務として関わっているWebサービスのみならず、多様な文脈で、長い歴史を経て育まれてきた普遍的な価値観や発明の蓄積があります。グループの中心に据える価値軸の抽象度を高めることにより、Webサービスという分野に限定したデザインではなく、より大きな視点で、デザインという文脈に目を向けてほしいと思いました。

以下は、業務の流れをベースにしながら、デザイナーという職能の機能を分解したものです。

課題・目的を見極め
アイデアに姿を与え
その要件を体系化し
具現化する事により
人々に価値を届ける

もちろん、これ以外にもデザイナーの職はいろいろな視点がありますが、業務を通じて成長をする仕組みなので、実際の業務スタイルに沿った要件に絞り込んでまとめています。これをグループの価値軸としてより強固に結びつけるため、人事評価の際の専門スキルの評価軸としました。

課題・目的を見極め → 企画
アイデアに姿を与え → 表現
その要件を体系化し → 設計
具現化する事により → 技術
人々に価値を届ける → 影響

今回は組織づくりに関する話題なので、個々の評価軸の詳細については触れませんが、執筆時点ではこのような構成になっています。

これで、プロダクト開発において、どういう観点・スキルでデザインの専門性を発揮すればよいかという軸が定まりました。ゴールに向かって、どのような歩き方をすればよいかという型が提供されたので、次は、どのようなゴールを設定するかです。

これに関しては、憧れのデザイナーのキャリアパスや制作物を意識するのが分かりやすいと思いますが、やはり、同じ環境に身を置くデザイナーから刺激が受けられるとスムーズです。どういう取り組みや価値観を良しとするか、その指標やヒントをグループから提供できないか。その一助とするべく始めたのが、ベストデザイン賞です。

ベストデザイン賞

ベストデザイン賞は、半年に一度、その期に発表されたサービス、グッズ、コーポレートツールなど、デザイナーが関わったあらゆる制作物から、最も優れたデザインとその取り組みを選出する取り組みです。優秀作品には、納会の壇上にて表彰を行い、グループウェアを利用して、全社にその講評を公開します。品質の高いデザインを見て刺激を受けるだけでなく、同じ環境でデザインをする仲間が、工夫したり、こだわったポイントを知ることが出来るので、日々の業務を行う上で参考にしやすく、自身のスキルアップに活かしてもらいたいと思っています。

ちなみに、この賞では、サービス・事業的なインパクトの大小や影響度ではなく、クリエイティブの品質やデザイン活用のアイデア、取り組みの先進性など、デザインにフォーカスした価値軸で選定を行っています。そのため、大型プロダクトを退けて、細かな見え方の改善が大賞を受賞することもあり、毎回、どのデザインが受賞するのか、目が話せない展開となっています。

2. 実践(挑戦と成長の後押し)

目指すところ、やりたいことが見えてきたら、今度は業務を通じてそれを実践するステップです。

経験豊富なデザイナーの元で下積みをし、その仕事を間近で見ながら一人前になっていく、みたいな話をよく聞きますが、技術を習得しようとする場合、徒弟制度のような仕組みは有効だと思います。知識や技術を、実戦の中でどう活かしていくかは、やはり座学よりも、時間と文脈を共有する師匠の日々の振る舞いの中から学べる事が多く、有効な師弟関係を業務の枠組みの中でいかに構築できるかも、実践の仕組みを作るうえで、大きなポイントになりそうです。

日々の業務を通じて成長するためには、業務上の試行錯誤や制作に対して、自分に近い立場から、議論をしたり、模範となるべき振る舞いを見せてくれる、師匠のような存在が居てくれると、目の前の仕事が、無味乾燥な作業ではなく、挑戦のための有用な機会になります。

かつて、はてなでは、デザイングループ全体を対象として、サービス横断のデザインレビューを行なっていた事もあるのですが、なかなか深い議論に発展させる事が難しく、サービスの特性までは踏み込まない、基本要件のレビューのようなものになっていました。精度の高いレビューをするためには、それぞれのサービスやメンバーに対する深い理解が必要になるので、自分の担当と異なるサービスをレビューする場合など、どうしても本質まで踏み込んだ議論がしにくいのです。

しかし、前提を共有する者同士であれば、踏み込んだ議論ができます。サービスに対して、自分より深い理解を持ち、経験も豊富な師匠であれば、レビューを通じて、これまでに無かった視点を与えてくれるでしょう。自分と近い立場にあって、日々取り組んでいるテーマの文脈を共有している事は、業務を通じて成長できる師弟関係を構築する前提として、とても重要です。

では、誰が師匠になるかですが、各サービスのリードデザイナーにその役割を担ってもらうことにしました。はてなでは、サービス毎に、リードデザイナーという役割を置いています。これは、サービスデザインの一貫性と品質を担保することを目的とした制度ですが、リードデザイナーは、デザインレビューなど、業務を通じて他のデザイナーと接する機会が多く、日々の成長を後押しする役割として適任だと思いました。

3. 定着(場と機会の提供)

日々の試行錯誤は、客観的に整理することで、経験を自分の中に定着させることが出来ます。自分なりに悩み、工夫を重ねた経験の蓄積は、何者にも代え難い成長の糧となります。プロダクトの制作が一段落した頃に、制作について悩んだり工夫したことを振り返り、自分の経験として定着させる機会があると良さそうです。

振り返りは、自分だけで行うのも良いですが、やはり、誰かに見てもらい、聞いてもらい、その反響を受け取ることが、モチベーションの向上に繋がります。また、第三者に説明する前提で整理することで、内容を客観視出来て、定着の精度も上がります。なので、グループとして、第三者に向けて日々の試行錯誤をアウトプットする場と機会を提供することで、メンバーの経験の定着を後押し出来ないかと思いました。そのための仕組みが、定例イベントデザイングループブログです。

Hatena Design Hour

定例イベントは、Hatena Design Hour といいます。このイベントは、プロダクトの背後にある、ものづくりの試行錯誤や創意工夫の物語にフォーカスし、作り手の口から、そのプロダクトの見どころやデザインのこだわりを語ってもらおうというイベントです。GMOペパボさんと共催したデザイン山アワーも含めると、もう9回も続く定例イベントとなっています。

なお、Hatena Design Hour のコンセプトについては、以前、ブログ記事にまとめていました。よければ合わせてご覧ください。

mnnr.hatenablog.com

デザイングループブログは、はてなデザイングループの情報発信の場として運営しています。イベントの情報をお知らせしたり、はてなが関わったプロダクトをポートフォリオとしてまとめたり、デザイナーの取り組みを集約する場所として位置づけています。メンバーは、ここを、日々のデザインに関するアウトプットに利用することが出来ます。

デザインに関する知見のアウトプットを、個人ブログで書くべきか、会社のブログで書くべきか、という議論はあると思いますが、個人的には、どちらでも良いと思っています。ただ、業務で制作したものについてまとめる時には、社内外の関係者にチェックを依頼するなどの事前準備が必要になるので、予めレビューの仕組みが整備された会社のブログで書けるとスムーズかなと思います。

なお、デザイングループブログは、具体的なデザイン事例の話だけでなく、メンバーの関心事など、気軽に読める内容になっていますので、ぜひ読んでみてください。

design.hatenastaff.com

成長のサイクルをまわす

このように、成長のプロセスを、理解、実践、定着と分解し、いろいろな施策を考えては、あれこれやってみています。しかし、個別の施策以上に重要なのは、プロセスの一部に人事評価と賞という会社の行事が組み込まれていることで、理解→実践→定着→理解・・・と、半年周期で成長のサイクルがまわり続けるようになっているところだと思います。

成長のサイクルが6ヶ月で一回転する

ゴールを見極め、試行錯誤や挑戦を行い、それを振り返ることで定着させ、より高いゴールを目指していく。目の前の仕事を、ただ繰り返すのではなく、半年ごとに、そういった視点でもって業務に取り組むことで、特別な学習の機会を設けずとも、業務を通じて成長することが出来る

まだまだ理想を完全な形で実現できてはいませんが、そういった仕組みになるよう、これからもブラッシュアップを続けて行きたいと思います。

最後に

あなたの組織づくりの話も聞きたいです。よかったら聞かせて頂けませんか。

今回の内容は、以前、Hatena Design Hour #5 にて、「デザイングループのデザイン」というテーマで発表をさせて頂きました。スライドは以下にアップロードしていますので、よければこちらもご覧ください。発表用スライドなので、注釈がないと分かりにくいかもしれませんが。