言いたくないこと

僕ヤバを読んでいて、中学受験を思い出した。

僕の住んでいた地域の公立中学は、男子は丸刈りにすることが校則で定められていて、それがどうしても嫌だから私立中学を受験することにしたんだけど、今思えば、僕の学力では無謀な挑戦だったと思う。僕はもともと頭が良いわけでもないし、それを補うに値する努力も足りていなかった。当然のことながら、結果は不合格だった。

受験に落ちたことはショックだったけど、それ以上につらかったのが、クラスメートに「落ちた」と伝える勇気が持てなかったことだ。僕のクラスからは3名が受験していて、クラスメートは僕が受験したことを知っている。合格者発表の日が来て、他のクラスの誰々が合格したらしいというような噂が、少しずつ校内に湧き上がるにつれて、そういえば、こいつはどうだったんだろう、という視線が僕にも向けられるようになってきた。

僕が全くその話を切り出さないものだから、まわりのクラスメートは、やきもきしたのだろう。ある時、受験の結果はどうだったの?と聞かれた。受験の挫折感とその場の居心地の悪さから、胸が苦しくなって、僕は言葉に詰まってしまい、思わず泣いてしまった。その反応から結果を察してほしいところだけど、当時のクラスメートには分からなかったのか、それとも僕の口から「落ちた」と言わせたかったのか、それからも何度か聞かれることになった。

聞かれたくないし、言いたくもない。でも、言えないから居心地が悪いのだ。言ってしまえば、居心地は悪くなくなるのだけど、惨めな気持ちと恥ずかしさで、言う勇気が持てない。そんな時、思いつめた僕に気を配りながら、ある友人はこう尋ねた。

「ねえ、来年からも、僕たちと一緒に学校行けるんだよね?」

僕は泣きそうになりながら「うん、そうだよ。」と答えることができた。言わなきゃいけないと思いながらも、ずっと言えなかったことを、こうして打ち明けることができた。彼の質問によって、心の中に重くのしかかっていたモヤモヤはスッと晴れたし、不安でいっぱいだった進学についても、前向きに捉えることが出来るようになった。言葉の力はすごい。

結局、その友人とは、中学、高校、そして大学まで同じ学校に通うことになり、大学2年の時にテレビ版エヴァンゲリオンを録画した僕のビデオテープを借りパクしたまま、彼は消息を断った。

井上くん、元気にしていますか。ビデオテープは返さなくていいから、また話をしたいね。

しかし、作品の完結を見届けるのが、ここから20年以上も先の事になるとは思わなかったな。

エヴァンゲリオンのネタバレはありません。